ファブラボ設立に向けて
時代の変化 〜パラダイムシフト〜
2013年5月。
知人に進められ一冊の本を手にとった。
『FabLife ― デジタルファブリケーションから生まれる 「つくり方の未来」 (田中浩也 著)』
時代背景として、本書で次のように記されている。
時代の流れには、見えない「周期」が埋め込まれていておよそ15年ごとに、技術が社会と出会う時期がやってくる。
1980年前後の「パーソナル・コンピュータ」、それまで限られた専門家のものであったコンピュータが個人のためのものとなって家庭にやってきた。
次は、1995年前後の「インターネット」、それまで限られた専門家のものであったネットワークが個人のためのものとなり、家庭が世界中とつながった。
そして2010年頃から次の可能性が芽生え始めた。「パーソナル・ファブリケーション」―工業の個人化である。
これまで限られた専門家のものであった「デジタル工作機械」がいま、個人のためのものとなり、家庭にやってこようとしている。
本書を読み、ものづくりのあり方が変わろうとしていることに対する興奮と期待と不安が入り混じった何とも説明し難い感情を抱いた。
そして、ものづくりのあり方について深く考えさせられた。
製造業とパーソナル・ファブリケーション
私自身、自動車開発エンジニアとしてものづくりに携わっている。
ただし、それはビジネスを目的としたものづくりであり本書のそれとは少し異なる。
バックキャスティング的な思想と分業体制のもとで行われる「ものづくり」は効率的で、悪い意味で期待を裏切らない結果をもたらしてくれる洗練されたものづくり手法である。
しかし、製造物に明確な完成像があるが故に、つくる過程での良い意味での発散、良い意味で期待を裏切るような派生を許さない。
規格化されたものを如何に早く、そして安くつくるかの過当競争になっているのが現状である。
このような結果をもたらした原因は何なのか。
どうすればこの現状を打破できるのかを考える中で、著書『FabLife』のメインテーマである「FabLab」、「パーソナル・ファブリケーション」に興味、感心をもち、自らもFabLifeを実践してみたいと思うに至った。
テクノロジーと潜在意識
ところで、我々は何故「パーソナル・コンピュータ」を使うようになったのだろうか、我々は何故「インターネット」を使うようになったのだろうか。
前者の問いに関しては、
手で書くよりエクセルやワードを使って書いた方が早いから、といったような総じて「仕事を効率化できるから」といった回答が多いことが予想されるが、そもそも何故、効率化したいのだろうか。
・仕事をさっさと終わらせて早く帰りたいから?
・今の仕事を早く終わらせて、別の仕事をしたいから?
と考えていくと、1つのことをやり続ける、いわゆるルーチンワークは、肉体的にも精神的にも耐え難いという人間の資質的潜在意識があることが起因しているのでは?という仮説に至った。
また、後者の問いに関しては、
・メールで簡単に意思疎通できるから
・検索したいものがすぐ調べられるから
・SNSを使いたいから
といった回答が多いことが予想され、楽して何かを得たいとか、誰かと繋がっていたいというこれもまた人間の資質的潜在意識が見受けられる。
結局のところ、潜在意識に先進的な技術がうまくマッチしたとき、その技術は世界を席巻するのではないだろうか。
とすれば、潜在意識を紐解けば世界を席巻する技術というものが予想できるのではないか。
パーソナル・ファブリケーションの可能性
そういう視点で、パーソナル・ファブリケーションを見てみると、その片鱗がうかがえる。
身近な例で言えば、(少し次元は異なるかもしれないが)例えば料理。
美味しいものを食べさせてあげたいからつくる。
美味しいものを食べさせてあげている自分に、生きている歓び、存在価値を見出すことができる。
人の役にたち、感謝されることで自分の存在価値を確かめる、自分という存在の価値を認めてもらいたいといった潜在意識を満たす行為が「つくる」ことなのではないだろうか。
今まさに、つくることを後押ししてくれる時代の波が来ているように思う。
この時代の波の傍観者ではなく、当事者、実践者として、志同じくする方々と時代をつくっていく挑戦者であり続けたい。
2014年7月時点で、世界約50カ国以上に311のファブラボ、日本には10個(鎌倉、つくば、渋谷、北加賀屋、仙台、関内、大分、鳥取、佐賀、浜松)のファブラボがあり、地域・社会、世界をまたにかけ活動をおこなっている。